Tamura ヒトハタ
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自然と農と、地域での暮らし

つながり自然農園 代表者 磯村 聡(佐久市)

埼玉県から長野県・佐久市に移住。移住後に未経験から農業をはじめて8年目。小さなころから自然が好きだったという磯村 聡さんに、農のある暮らしと地域とのつながり、里山の自然を守る想いについてお話を伺いました。

移住は「失敗しても、だめでもいい」

農業を始める前は、国立公園の自然ガイドや野外体験施設のスタッフとして働いていました。子供の頃から自然が好きで、自然とヒトをつなぐ仕事をしたいと思っていました。佐久は母の実家です。祖父が高齢になり農業はもうできないという話を聞いたときに、昔からよく通っていた大好きな里山で何かできないかなと思い、移住することにしました。不安もありましたが、「失敗してもいい、だめでもいい」という気持ちでまず行動しました。最初から農業をやるつもりではなかったのですが、畑と田んぼがあるなら、作物を作ってみようと思い、一年間の農業研修を受けてから佐久に移住しました。8年経った今は、炭素循環農法で、野菜を育てるつながり自然農園として、主にミニトマトやフルーツコーンの生産を行っています。

移住先での仲間づくり

佐久には知人もいませんでしたし、移住当初は孤独感も感じました。でも目の前の農業のことに手一杯で、落ち込む暇はありませんでした。初めの一年は思い通りにいかないことも多く、試行錯誤の連続でした。何をやっていたのか覚えていないくらいです。最初は地域の若い世代のヒトたちとのつながり方がわからなかったのですが、佐久には若手の農業者の方が多いことがわかり、そうした方の会に参加するようになりました。ここでさまざまな出会いがあり、友達と呼べるヒトにも出会うことができました。

地域のヒトとの連帯感

住んでいる地区には、専業農家の方は少ないですが、皆さん小さくても畑や田んぼを持っています。暮らしてみると農は地域を作っている部分が大きいなと思います。どの家でも畑の草を伸ばしたままにすることはなく、「そろそろ刈らなきゃいけないな」と思っていますし、地域全体で地域を保とうという連帯感があります。みんなで清掃をしたり、観光資源になる花を植える作業などを行うことで一体感が生まれます。こうした日常の中で、助け合う意識が当たり前に醸成されているように感じています。地域の子供たちも人数は少ないですが、世代に関係なく一緒に遊んでいます。大人も子供も世代を越えた交流ができるのは、地域の魅力の一つだと思います。

自然+農を軸にしたもう一つの生業

作物を作って売るということ以外に、農を軸にしたいくつかの生業を持っています。ひとつはうちやまコミュニティ農園で、ここには農をベースにしたサードプレイス的役割があります。かかわり方もニーズに合わせて選択していただくことができます。もうひとつは、自然ガイドの経験から、田植えや、稲刈り、トウモロコシ収穫や、ホタル観察、田んぼの生き物観察や、畑キャンプなどの自然体験を県内外の方にも楽しんでいただくサービスを作っています。いずれも自然+農を軸に地域の魅力を伝える生業です。

農のある暮らしをデザインする

これから力を入れていきたいことは、“一坪家庭菜園”の普及です。これは、1m×1mくらいの土地を木枠で囲って、プランターのように土を詰め、野菜や植物を育てるものです。コンクリートの上でもできますし、小さな範囲なので手入れも楽です。地方でも都市部でもどこででもできます。この一坪家庭菜園では、誰でも気軽に農のある暮らしを実現することができます。考え方やノウハウを広めることで、農に対するハードルを下げることができればいいなと思っています。一坪家庭菜園を通じて、農のある暮らしにさらに興味を持ってもらえるなら、次はコミュニティ農園に来て頂いたり、その先は移住や就農につながっていくのかもしれません。

Photo:石田 諒

身近なヒトを大切にすることで自然を守る

以前は、自分が農業に携わることで里山の環境を守りたい、関わるヒトに自然を好きになってもらいたいと、少し壮大に考えている部分がありました。でもいまは、地域のヒトやSNSの発信によってつながり、共感し合えるヒトたちなど、身近なヒトをまず大切にしたいと思うようになりました。そうした想いこそが結果的に里山を守っていくことにつながっていくのではないかと思っています。